形態計測 (不破紅樹・洲鎌圭子・平田聡・楠木希代・藤田心)
身体発達という生理的現象を把握するため、形態計測を実施した。長育、量育、幅育、周育、歯の発育に関する身体の代表的な部位の計測および記録を、計35項目にわたり毎月2回各個体に実施した。今後は、計測で得られた結果の詳細な分析を進めると同時に、運動能力など身体機能との関係を検証する。
脳波測定 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代)
東京大学21世紀COEプロジェクトとの共同研究。ミズキを対象として、①音を用いたオッドボール課題、②呼名課題:呼名者の親近性効果、③チンパンジーのBiological Motion課題、④ヒトのBiological Motion課題、⑤物体の写真を用いた情動画像課題、⑥チンパンジーの写真を用いた情動画像課題の各課題をおこなった。2008年9月にミズキが出産したのをもって実験を終了した。得られた結果を解析中である。この研究は文部科学省科学研究費(21世紀COEプログラム・長谷川寿一)の助成を受けた。
遅延自己像の認識 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
明和政子氏(京都大学)との共同研究。チンパンジーの自己認識能力に時間軸がどのように関与しているのかについて調べた。チンパンジーの顔周辺をビデオカメラで撮影し、①生の映像、②1秒/2秒/4秒の遅延時間をはさんだ映像、③違う時期に録画した自己像や他者像をそれぞれモニターに映し、チンパンジーの反応を記録した。5個体のチンパンジーのうち3個体では、遅延時間をはさんだ自己像に対しても自己認識の証拠が認められた。成果の一部を「ソーシャルブレインズ」(開一夫・長谷川寿一編、東京大学出版会)に発表した。この研究は文部科学省科学研究費(若手(A)・明和政子、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
アラビア数字の系列学習 (平田聡・田代靖子・座馬耕一郎・藤田心)
1から9までのアラビア数字を序数として覚える課題を実施した。タッチパネル式モニター画面上にアラビア数字が現れ、それを「1」から小さい順にタッチするというものである。チンパンジー放飼場内の屋外実験室(通称・ドーム)に新たに4台のタッチパネル式モニターを設置し、計6台のタッチパネルで並行して実験ができる設備を整えた。2009年3月末現在、ロイとミズキは1から9までの学習が完了し、ジャンバは1から9までを学習中、ツバキとミサキは1から6までを学習中、ナツキは1から4までの学習が完了したところである。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
4Dエコーによる胎児・新生児の脳構造の精査 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
竹下秀子氏(滋賀県立大学)、明和政子氏(京都大学)との共同研究。胎児・新生児の頭部に4Dエコーを適用することで脳構造の撮像ができることがわかった。これを利用して、胎児期からのチンパンジーの脳構造の発達的変化を追跡する研究をおこなった。2008年生まれの2個体を対象に現在もデータを収集している。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(B)・竹下秀子)の助成を受けた。
胎児の外界音に対する反応 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
竹下秀子氏(滋賀県立大学)、明和政子氏(京都大学)との共同研究。ミサキとミズキの妊娠時に、母体の腹部から音声を呈示し、それに対する胎児の心拍変化を心音ドップラー装置によって測定した。音声呈示の条件として、母親の音声を通常通り再生した場合と、同じ音声を逆再生した場合の2条件を設定した。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(B)・竹下秀子)の助成を受けた。
4Dエコーによる胎児の観察 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
竹下秀子氏(滋賀県立大学)、明和政子氏(京都大学)との共同研究。ミサキとミズキが2008年6月と9月にそれぞれ出産するまで、胎児の身体行動発達の様子を超音波画像診断装置(4Dエコー機)で観察した。チンパンジーの胎児においても、手を口に入れる、手足で別の手足を握る、口をあくび様に開閉させる、手指を細かく開閉するなどの運動をおこなうことが確認され、こうした行動の初出時期はヒトの胎児とほぼ同時期であることが分かった。得られた結果の一部を「発達(116号)」(2008年)に発表した。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(B)・竹下秀子、若手(A)・明和政子)の助成を受けた。
チンパンジー乳児における音声発達 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・田代靖子・座馬耕一郎・楠木希代・藤田心)
チンパンジー乳児におけるスタッカート音発声の発達について実験的に調べた。外界の音声に反応してチンパンジー乳児がスタッカート音を発声する現象を利用し、4種類の音声を呈示したときの乳児の反応を記録し、その発達的変化を追跡した。呈示した音声の種類に関わらず、2-3か月齢時に最も頻繁に音声反応が生起することが明らかになった。この研究は文部科学省科学研究費(若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
チンパンジー乳児における随伴性の理解 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
チンパンジー乳児が人工乳首を口にくわえて吸綴反応をおこなうと音声が再生される実験装置を作成し、自身の吸綴反応と外界からの音声呈示の随伴性をチンパンジー乳児が認識しているのかについて検討した。現在も実験を継続中である。この研究は文部科学省科学研究費(若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
4か月齢における3項関係の成立の有無 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
ヒトでは、4か月齢頃において3項関係(自身、他者、物もしくは別の他者の関係)の理解が始まるといわれる。この点についてイロハが4か月齢時に検証した。イロハに対して「いないいないばあ」遊びをおこなって2者間の交渉時のイロハの行動を確認した後、イロハの前で実験者が物に関わる場面、および実験者が別の実験者と関わる場面を設定し、それぞれの条件でイロハの行動を記録した。この研究は文部科学省科学研究費(若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
チンパンジーの視線測定 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
視線の向きを検出するアイトラッカー(Tobii T60)を導入し、チンパンジーがモニター画面上の種々の静止画を見ている際の視線を測定した。チンパンジーの視線を正しく検出するためのキャリブレーションを確立したのち、チンパンジーの顔写真をモニター上に呈示して、各個体が写真のどの部分に注目するのか測定した。現在も実験を継続中である。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
チンパンジーの掻痒症と爪の長さの関係 (洲鎌圭子・不破紅樹・楠木希代)
2006年1月および3月に著しい爪長の短縮と皮疹をともなう掻痒症が発生したため、掻痒症指標としての爪長の変化について検討した。週1回の爪長の測定により、掻痒の発生にともなう著しい短縮を確認した。爪上皮と爪甲境界部にしるしをつけて、爪の成長速度の測定を継続している。ヒトにおける爪の成長速度は年齢、性別、季節によって異なることを考慮し、3年間測定をおこない詳細に分析する予定である。
ボノボの子どもの社会性の発達に関する研究 (田代靖子)
コンゴ民主共和国キンシャサ市のボノボ保護施設「Lola ya Bonobo」において、母子間の社会交渉や子どもの行動の発達にともなう変化について研究をおこなった。昨年度に引き続き、施設生まれの子ども6頭を対象に、子どもが周辺他個体との交渉を通じて社会性を獲得する過程についてデータ収集をおこなった。この研究は独立行政法人日本学術振興会先端研究拠点事業HOPEによる助成を受けた。
ボノボの行動の地域変異に関する研究 (田代靖子)
ボノボの肉食行動に着目し、地域間の比較や飼育下個体の行動から、肉食行動の社会的意味について分析をおこなった。今年度は飼育下ボノボの小動物を利用した遊びについて資料を収集し、日本アフリカ学会大会において発表した。
タンザニア共和国のチンパンジーの遺伝的変異に関する研究 (田代靖子)
小川秀司氏(中京大学)、井上英治氏(京都大学)他との共同研究。タンザニア共和国西部に生息するチンパンジーから非侵襲的に遺伝的試料を採集し、各個体群間の遺伝的変異について分析をおこなった。この研究は独立行政法人日本学術振興会先端研究拠点事業HOPEによる助成を受けた。
相互行為論からみたチンパンジー乳児の運動パターン形成 (田代靖子・平田聡)
伊藤詞子氏((財)日本モンキーセンター)、高田明氏(京都大学)との共同研究。ヒトの養育者-乳児間相互行為の文化的多様性に関する知見を踏まえつつ、それと対比するかたちでチンパンジーの乳児が安定した運動パターンを形成していくプロセスについて明らかにすることを目的とする。チンパンジーの乳児とその母親を主な対象として、飼育者を含む他個体とのかかわりのなかで、歩行や授乳パターンをはじめとする運動パターンがどのように形成されていくのかに注目して観察とデータ収集をおこなった。この研究は文部科学省科学研究費(若手(S)・高田明)の助成を受けた。
タンザニア・ウガラ地域におけるチンパンジーの生態学的研究 (吉川翠・伊谷原一)
小川秀司氏(中京大学)との共同研究。タンザニア連合共和国ウガラ地域において、チンパンジーの生息を制限している要因および生息可能域について研究をおこなった。調査ではネストセンサス、植物相、動物相、人間活動の有無等の情報を収集した。また、GISを用いて生息地と非生息地における植生、斜度等の解析を試みた。これらは、これまでに収集したデータを加え、さらに分析をおこなっている。この研究は、環境省地球環境研究総合推進費(F-061 西田利貞)「大型類人猿の絶滅回避のための自然・社会環境に関する研究」の一環としておこなった。
チンパンジーのベッド構造 (座馬耕一郎)
タンザニア連合共和国マハレ山塊国立公園において、チンパンジーのベッドの構造を調べた。作成者が判明しているベッドにのぼり、上から順に枝組みをはずしてゆき、枝がどのように加工されているかを記録した。母子間では、コドモ期にあたる子が枝を「切って置く」方法を多用したのに対し、母親は「曲げる」「折る」が相対的に多かった。また、枝を「折る」場合、折った枝の上に別の枝をのせ、さらに折る「2段折り」の利用方法が観察されたが、この頻度は母親で多く、子で少なかった。このことから、子は母親からベッドを作成することを学ぶとしても、作成方法は試行錯誤で行なっていることが推測された。その他の個体のベッドの構造については現在分析中である。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(A)・西田利貞)による助成を受けた。
チンパンジーのシラミ卵の密度 (座馬耕一郎)
チンパンジーは毛づくろいでシラミなどを除去することが知られているが、シラミは全生活環をチンパンジーの体表上で過ごす寄生虫であるため、実際にどれくらいのシラミが寄生しているか直接的に調べるのが困難である。本研究では、タンザニア連合共和国マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーを対象に寄生しているシラミの密度を調べた。方法は、ベッドにのぼり、残された毛を採取し、それにシラミの卵が付着しているかどうか確認する間接的な手法を用いた。結果は現在分析中である。この研究は文部科学省科学研究費(基盤(A)・西田利貞)による助成を受けた。
チンパンジー生息地の現地住民の生活調査 (座馬耕一郎)
伊藤詞子氏、西田利貞氏((財)日本モンキーセンター)との共同研究。タンザニア西部のチンパンジー生息地4地域において、そこで生活する現地住民が糞尿の処理をどのようにしているか、チンパンジーに対してどのような意識を持っているかを調べた。また、国立公園境界線付近の森林を地域住民がどのように利用しているのかを調べた。糞の処理は多くの人が活動する領域か否かにより異なっていた。また地域住民は、チンパンジーに対して人に類似した知能の高い生物だという認識を持っていた。森林は、村に近い場所では畑地や薪採集に利用されていたが、離れるにつれ、炭焼き、材木といった利用がされていた。この研究は環境省地球環境研究総合推進費(F-061 西田利貞)「大型類人猿の絶滅回避のための自然・社会環境に関する研究」の一環としておこなった。
チンパンジーの寝相 (座馬耕一郎・石田有希・楠木希代・洲鎌圭子・田代靖子・難波妙子・平田聡・藤田心・不破紅樹・吉川翠)
チンパンジーが睡眠時にどのような姿勢で眠り、どれくらいの頻度で寝返りをうつかについて分析をおこなった。ミサキ、ミズキの出産前後の夜間に撮影された映像をもとに、各個体の寝相の推移と寝返りの頻度を調べた。今後、寝相の個体差などに注目して分析する予定である。