音声の理解に関する研究 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・井上紗奈・山本真也)
視線検出装置を用い、音声を提示したときのチンパンジーの視線運動を計測した。実験時の音声提示に慣れさせる訓練も兼ねている。1)ヒト全身像を画面に映しながら身体部位を指示する音声を提示する条件、2)チンパンジー2個体の顔写真がモニター上に対提示され、どちらか一方の個体名が音声で呈示される条件、3)ヒト乳児の泣き顔と笑い顔がモニター上に対提示され、泣き声もしくは笑い声が音声で呈示される条件を設定して実験をおこなった。発話や音声の理解をうかがわせる結果は現段階では得られていないが、詳細については現在分析中である。今後、音声刺激と視覚刺激を組み合わせたさまざまな認知課題に発展させていきたい。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
顔写真の知覚と全体処理 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
チンパンジーの顔写真をモニター上に呈示した際のチンパンジーの視線パターンを視線検出装置によって計測した。呈示した顔写真として、開眼、閉眼、正立画像、倒立画像を組み合わせた4条件、およびこれらの写真に空間周波数のHigh pass filterもしくはLow pass filterを施したものを用いた。空間周波数を操作しない画像に対する視線パターンを解析した結果、チンパンジーが顔の全体処理をおこなっていること、および開眼顔と閉眼顔で異なる知覚処理をしていることが示唆された。得られた成果の一部を「Animal Cognition」(2010年)および「発達(120号)」(2009年)に発表した。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
他者の意図的行為の理解 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・井上紗奈・山本真也)
明和政子氏(京都大学)との共同研究。他者が意図的行為をおこなう動画をモニター上に呈示し、これをチンパンジーが見た際の視線パターンを、視線検出装置を用いて計測した。また、得られた結果を、ヒト乳児での同様の実験結果と比較した。現在も実験を継続中である。ヒトに比べてチンパンジーは行為者の顔を見る頻度が低いという結果が得られている。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
遅延自己像の認識 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
明和政子氏(京都大学)との共同研究。チンパンジーの自己認識能力に時間軸がどのように関与しているのかについて調べる実験をおこない、2008年度までにデータを収集した。このデータを分析し、チンパンジーの自己認識に時間的随伴性がどの程度の役割を果たしているのか検討した。この研究は科学研究費(若手(A)・平田聡、若手(A)・明和政子)の助成を受けた。
チンパンジーとヒトの眼球運動に関する比較研究 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・井上紗奈・山本真也)
狩野文浩氏(京都大学)との共同研究。様々な静止画もしくは動画をモニター上に呈示し、これをチンパンジーとヒトが見た際の眼球運動を視線検出装置によって計測した。ヒトに比べてチンパンジーは注視時間が短い傾向にあること、およびヒトとチンパンジーとで注視点の移動のパターンが異なることが明らかになった。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
チンパンジー乳児における随伴性の理解 (平田聡・田代靖子・座馬耕一郎・井上紗奈・山本真也)
チンパンジー乳児が人工乳首を口にくわえて吸綴反応をおこなうと音声が再生される装置を用いて、自身の吸綴反応と外界からの音声呈示の随伴性をチンパンジー乳児が認識しているのか検討する実験をおこなった。現在データを分析中である。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
ナッツ割り道具使用のハンマー選択 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・井上紗奈・山本真也)
Cornelia Schrauf氏(Max Plank Institute)との共同研究。チンパンジーがナッツ割り道具使用をおこなう際、重さの異なるハンマーを呈示し、ハンマー選択と重さの関係について検討した。重さの選択に関してどの個体にもある程度の偏りが見られたが、どの重さを好むのかについては個体差があった。現在も実験を継続中である。この研究は科学研究費補助金(若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
脳波測定 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代)
東京大学21世紀COEプロジェクトとの共同研究。ミズキを対象として、2008年8月までにおこなった脳波測定実験の結果を解析した。呼名課題として、スピーカから、1)自分の名前、2)仲間の名前、3)知らない名前、4)言葉ではない人工音、これら4つの音声を流し、それを聞いている際のミズキの脳波を分析した結果、自分の名前を聞いたときに他とは異なる脳波が観測されることが判明した。この成果を「Biology Letters」(2009年)および「発達(120号)」(2009年)に発表した。この研究は科学研究費(21世紀COEプログラム・長谷川寿一、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
4Dエコーによる胎児観察データの解析 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
竹下秀子氏(滋賀県立大学)・明和政子氏(京都大学)との共同研究。ミサキとミズキが2008年6月と9月にそれぞれ出産するまで、胎児の身体行動発達の様子を超音波画像診断装置(4Dエコー)で観察した。得られた画像データを、胎児の行動発達の観点から解析した。この研究は科学研究費(基盤(B)・竹下秀子、若手(A)・明和政子)の助成を受けた。
4Dエコーによる胎児・新生児の脳構造の精査 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
竹下秀子氏(滋賀県立大学)・酒井朋子氏(京都大学)との共同研究。2008年に出生したハツカとイロハを対象に、4Dエコーを用いて胎児期から新生児期にかけての脳構造の撮像をおこなった。得られた画像データを基に、チンパンジーにおける脳構造の発達的変化をヒトとの比較において探る目的で解析をおこなった。この研究は科学研究費(基盤(B)・竹下秀子)の助成を受けた。
メタ認知の理解の研究 (平田聡・井上紗奈・山本真也・田代靖子・座馬耕一郎)
藤田和生氏(京都大学)との共同研究。タッチパネルとコンピュータを用いて、メタ認知の理解の研究のためのトレーニングをおこなっている。手続きが複雑なため、ひとつひとつ手順を追ってトレーニングをおこなっている。導入として、複数のイラスト写真のなかから、見本として呈示された写真と同じものを選ぶ、という見本合わせ課題をおこなった。第一ステップとして、見本の写真がはじめから呈示されている同時見本合わせからトレーニングを始めた。2選択課題から5選択課題までおこなったあと、第二ステップの遅延見本合わせのトレーニングに移行した。見本の写真が呈示されたあと、一定の遅延時間(0.5sec-1.0sec)をはさんでから比較の刺激が呈示された。最初に呈示された見本の写真が何だったか記憶していなければ正答できない課題である。現在、3個体が遅延見本合わせのトレーニングまで修了した。今後もトレーニングを継続すると同時に、報酬の質を変化させる新しい装置を導入し、メタ認知を問う課題への移行を目指す。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡、若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
予期的視線に関する研究 (平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・井上紗奈・山本真也)
視線検出装置を用いてチンパンジーの視線運動を計測し、チンパンジーが他者の行動をどのように予測するのかを検討した。チンパンジーは、目の前を動く人が途中障害物に隠れると、進行方向の先を予期的に見ることがあった。しかし、衝立の後ろから食べ物に手を伸ばす場面では、繰り返しこの場面をみせても、手が出てくる窓への予期的な視線運動はみられなかった。眼前に存在している事物への対処はヒトと同様であるが、直接見えないものへの反応にはヒトと違いがみられると考えられる。今後、この仮説の検証をより詳細に詰めるとともに、他者理解の中心命題となっている「心の理論」研究に発展させていきたい。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡)の助成を受けた。
数字系列の学習・記憶研究 (井上紗奈・平田聡・山本真也・田代靖子・座馬耕一郎)
呈示された数字系列をどのように知覚しているかを調べることを目的とし、先行研究との比較・ヒトとの比較により、思春期における短期記憶の容量について検討する。タッチパネルとコンピュータを用いて、数字系列の学習と記憶課題のトレーニングをおこなった。2010年3月現在、3個体が数字系列1-9のすべての組み合わせの学習を終え、記憶課題を始めている。今後もチンパンジーのトレーニングを継続し、瞬間呈示時の記憶容量についてテストをおこなう予定である。この研究は科学研究費(若手(A)・平田聡、若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
数字系列の理解に関する視線研究 (井上紗奈・平田聡・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心・山本真也)
視線検出装置を用いて、数字系列を提示したときのチンパンジーの視線運動を計測した。上記のタッチパネルでおこなっている数字系列の課題と並行し、呈示された系列をどのように知覚しているかを調べることを目的としている。現在、テストを継続中であるが、視線の動きに特徴的なパターンがみられる途中結果が得られた。また、京都大学霊長類研究所において、同様のテストをおこなった(狩野文浩氏への委託研究)。今後はテストを継続し、また、視線検出と同時にタッチパネル課題を同期させる研究をおこなう予定である。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、若手(A)・平田聡、若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
ヒトにおける数字系列の記憶研究 (井上紗奈)
チンパンジーとの比較をおこなうため、ヒトの子ども・おとなにおいて、チンパンジーと同様の数字系列の記憶課題を導入した。ヒトの子どもの実験は、学童保育「ともだちクラブ」に協力いただき、小学校2・3年生を対象としておこなった。夏休み期間の約一カ月、月曜から金曜の5日間の毎日トレーニングおよびテストをおこない、おとなは、GARIのスタッフを対象として週5日おこなった。その結果、学習速度にはばらつきがあるものの、発達段階にかかわらず、ヒトはヒト特有の記憶戦略をもち、チンパンジーのそれとは異なることが示唆された。この研究は科学研究費(若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
チンパンジーの寝相と寝返り (座馬耕一郎・石田有希・楠木希代・洲鎌圭子・田代靖子・難波妙子・平田聡・藤田心・不破紅樹)
睡眠は大脳を休めるために必要な行動であり、ヒトではより快適な睡眠を得るためにさまざまな寝相をとることが必要であると言われている。大型類人猿はベッドをつくり睡眠をとることが知られているが、実際にどのような姿勢で眠っているか調べた研究はほとんどない。そこで、類人猿研究センターのチンパンジー6頭について2008年5月に撮影された夜間行動の映像資料をもとに、寝相の選好性や寝返りの頻度を調べた。2夜の資料について分析した。寝相は、仰向け、斜め右上向き、右横向きなど、8方向に分けて記録した。その結果、オトナ(5頭)は横向きに眠ることが多かったが、コドモ(1頭)は上下左右の4方向を向く寝相をほぼ同じ時間とっていた。寝返りは平均5.3回だった。同じ寝相で続けて眠る持続時間は最短で0.1分、最長で60分とさまざまで、浅い眠りと深い眠りがあることが示唆された。また、寝返りは、他個体と同調しておこる傾向にあった。
野生チンパンジーの映像行動目録の作成 (座馬耕一郎)
西田利貞氏、松阪崇久氏、稲葉あぐみ氏((財)日本モンキーセンター)と共同で、野生チンパンジーのさまざまな行動について、映像による目録を作成した。映像はおもに、タンザニア・マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーM集団を対象に、西田、座馬、松阪が撮影したものをもちいた。行動は、他地域、他種と比較しうるように、できるだけ細かく分類し、映像内に行動名や撮影者が表示されるように編集をおこなった。
オナガザル2種の生態学的研究 (田代靖子)
ウガンダ共和国カリンズ森林においてロエストモンキー(Cercopithecus lhoesti)とブルーモンキー(C. mitis)の採食生態に関する野外調査をおこなった。また、ロエストモンキーの社会変動に関する資料を収集した。この研究は科学研究費(基盤(A)・五百部裕)の助成を受けた。
タンザニア共和国のチンパンジーの遺伝的変異に関する研究 (田代靖子)
小川秀司氏(中京大学)、井上英治氏(京都大学)他との共同研究。タンザニア共和国西部に生息するチンパンジーから非侵襲的に遺伝的試料を採集し、各個体群間の遺伝的変異について分析をおこなった。
相互行為論からみたチンパンジー乳児の運動パターン形成 (田代靖子・平田聡)
伊藤詞子氏、高田明氏(京都大学)との共同研究。ヒトの養育者-乳児間相互行為の文化的多様性に関する知見を踏まえつつ、それと対比するかたちでチンパンジーの乳児が安定した運動パターンを形成していくプロセスについて明らかにすることを目的とする。チンパンジーの乳児とその母親を主な対象として、飼育者を含む他個体とのかかわりのなかで、歩行や授乳パターンをはじめとする運動パターンがどのように形成されていくのかに注目して観察とデータ収集をおこなった。この研究は科学研究費(若手(S)・高田明)の助成を受けた。
チンパンジーと社会的カテゴリー (田代靖子・平田聡)
伊藤詞子氏(京都大学)との共同研究。ヒトである観察者が動物に自明のものとして当てはめるオス/メス、オトナ/コドモ、母親/子、優位/劣位といった区分が、当の動物たちにとって実際の相互行為のなかでいかに組織化されるのか/されないのかを明らかにすることを目的とする。観察の中心となった形態計測場面では、チンパンジーだけでなく、ヒトを含む相互行為が展開される。そこで、同種個体間、異種個体間で、どのように相互行為を組織立てていくのかに注目して、観察とデータ収集をおこなった。この研究は科学研究費補助金(若手(A)・伊藤詞子)の助成を受けた。
形態計測 (不破紅樹・洲鎌圭子・平田聡・楠木希代・藤田心)
チンパンジーの身体的発達を把握するため、形態計測を継続した。長育、量育、幅育、周育に関する身体の代表的な部位42項目の計測を、毎月2回、各個体に実施した。縦断的に計測することで、チンパンジーの加齢に伴う身体的変化を把握すると同時に、データの分析を進め運動能力など身体機能との関係を検証する。
食品目テスト (藤田心・不破紅樹・楠木希代・洲鎌圭子・平田聡)
野生チンパンジーは、年間200種類以上の食物を食べると言われているが、飼育下ではこの品目数に遠く及ばない。このテストでは食物レパートリーを増やすため、飼育下のチンパンジーが何を食べるかをテストした。1回のテストで各個体に対して1品目を提示し、積極性や食べる部位、食速度等を記録した。2010年3月末現在で66種類88回のテストを終えている。今後はテスト品目を増やすと同時に、食べなかった食品に対し条件を変えて提示することで、新しい食物レパートリーを獲得していくか検証したい。