思春期チンパンジーにおける数字系列の記憶研究(井上紗奈)
タッチパネル&コンピュータを用いて数字系列の記憶課題のトレーニングをおこなっている。思春期個体に加え、課題を始めた子ども個体のデータを追加収集した。この研究は科学研究費(若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
チンパンジーにおける写真系列の学習研究(井上紗奈)
性周期の視覚的把握についての検討をおこなうため、タッチパネル&コンピュータを用いて、性皮写真を刺激とした系列学習をおこなっている。訓練継続中である。この研究は科学研究費(若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
チンパンジーにおける性皮腫脹の有無における個体選好について(井上紗奈・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
性皮腫脹のある個体、ない個体によって新奇個体への選好がおきるかどうか、視線検出装置を用いた視線検出から検討した。昨年度得られた結果をもとに、追加テストをおこなった。この研究は科学研究費(若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
他者の過去記憶について(井上紗奈・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
視線検出装置を用いた写真呈示によるデータ収集をおこなった。数種類のパタンのテストをおこない、違いを調べた。この研究は科学研究費(若手(B)・井上紗奈)の助成を受けた。
気温の変化に対するチンパンジーの睡眠行動の変化(座馬耕一郎・不破紅樹・洲鎌圭子・田代靖子・楠木希代・井上紗奈・藤田心)
睡眠は脳や体を休める重要な行動である。本研究ではチンパンジー(ミサキ・ハツカ)を対象に、気温の変化に対してどのように睡眠に関する行動を変化させるかを調べた。分析には、2011年4月から1年間撮影された夜間の映像記録を用い、各月2夜分について10分毎のスキャンサンプリングをおこなった。各個体とも夏に仰向けで眠る頻度が高くなり、また眠り始めにも仰向けがよく観察された。一方で冬にはワラを体の周りに集めてベッドを作る頻度が高くなり、仰向けで寝ることが少なかった。このことから、夏や宵のうちの気温が高いときは腹を上にして熱を逃がし、冬などの気温の低いときには仰向けをやめ、ワラで体を囲っていると考えられた。この研究は、京都大学野生動物研究センター共同研究の助成を受けた。
オナガザル3種の採食生態に関する研究(田代靖子)
ウガンダ共和国カリンズ森林においてロエストモンキー(Cercopithecus lhoesti)、ブルーモンキー(C. mitis)、レッドテイルモンキー(C. ascanius)の野外調査をおこなった。3種の採食生態に関する資料および遊動に関する資料を収集し、分析した。この研究は科学研究費(基盤(A)・五百部裕)の助成を受けた。
ロエストモンキーの群れ変動に関する研究(田代靖子)
ウガンダ共和国カリンズ森林においてロエストモンキーの野外調査をおこなった。2009年から継続して観察している群れを対象に、個体識別に基づいて、グルーミングや攻撃的交渉などの社会学的データを収集した。また、個体間の血縁関係を判定するために、DNA試料を採集した。この研究は科学研究費(基盤(A)・五百部裕、基盤(C)・田代靖子)の助成を受けた。
視線検出装置を用いたチンパンジー-ヒト間の相互モニタリング過程についての研究(田代靖子・座馬耕一郎・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
高田明氏・伊藤詞子氏・平田聡氏(京都大学)との共同研究。本研究の目的は、チンパンジーとヒトが相互行為を行う過程を正確に記録し、それがどのように組織化されているのかを明らかにすることである。こうした相互行為の組織化に関しては、ヒトの乳幼児と養育者のそれとの比較も視野においている。チンパンジーおよびヒトのそれぞれにゴーグル型視線検出装置を装着し、両者が相互行為をおこなう場面(例:チンパンジーの形態計測場面)での両者の視線の動きを測定した。この研究によって、同じ場面で相互行為を行うチンパンジーおよびヒトのそれぞれの視線を収めた予備的動画資料を得ることができた。この研究は科学研究費(萌芽・高田明)および国立情報学研究所共同研究(高田明)の助成を受けた。
チンパンジーと社会的カテゴリー(田代靖子・不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
伊藤詞子氏(京都大学)との共同研究。ヒトである観察者が動物に自明のものとして当てはめるオス/メス、オトナ/コドモ、母親/子、優位/劣位といった区分が、当の動物たちにとって実際の相互行為のなかでいかに組織化されるのか/されないのかを明らかにすることを目的とする。観察の中心となった形態計測場面では、チンパンジーだけでなく、ヒトを含む相互行為が展開される。そこで、同種個体間、異種個体間で、どのように相互行為を組織立てていくのかに注目して、観察とデータ収集をおこなった。この研究は科学研究費(若手(A)・伊藤詞子)の助成を受けた。
形態計測(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
チンパンジーの身体的発達を把握するため、形態計測を継続した。長育、量育、幅育、周育に関する身体の代表的な部位41項目65箇所の計測を、毎月2回、各個体に実施した。縦断的に計測することで、チンパンジーの加齢に伴う身体的変化を把握すると同時に、運動能力など身体機能との関係を検証する。
他者の意図的行為の理解(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
明和政子氏・平田聡氏(京都大学)との共同研究。モデルとなる人物が、ある目的を達成する場面、および目的に失敗する場面を演じたビデオを提示し、これらのシーンをチンパンジーが見た際の視線の動きを視線検出装置によって検出した。同様の条件でヒトを被験者として実施した結果との比較解析をおこなっている。この研究は科学研究費(基盤(S)・藤田和生、基盤(B)・平田聡)の助成を受けた。
チンパンジーにおける不気味の谷現象の検討(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
明和政子氏・平田聡氏(京都大学)との共同研究。不気味の谷現象は、もともとロボット工学において提唱された概念である。ロボットがその外観や動作において、より人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的、共感的になっていくが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わる現象を指す。人間に近いけれど人間ではないという特徴が「奇妙さ」を際立たせてしまうために生じるものである。転じて、既知の顔と未知の顔を合成した顔写真を見た場合に「奇妙さ」を感じる場合も「不気味の谷」として考えられる。チンパンジーにおける不気味の谷を検討するため、既知の顔写真、未知の顔写真、およびその合成顔写真を提示し、これらの写真を見る際のチンパンジーの視線を視線検出装置によって測定した。現在得られた結果を解析中である。この研究は科学研究費(基盤(B)・平田聡)の助成を受けた。
赤外線サーモグラフィによる顔表面温度の測定(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
平田聡氏(京都大学)との共同研究。チンパンジーの顔表面温度を赤外線サーモグラフィによって測定した。測定する際に、チンパンジーの情動を喚起するような動画を提示する条件、およびその対照となる条件を導入しておこなった。その結果、情動を喚起するような動画を見ている際に、チンパンジーの顔表面温度が顕著に変動することが示された。この研究は科学研究費(挑戦萌芽・平田聡)の助成を受けた。
唾液中のオキシトシン濃度の測定(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
明和政子氏・平田聡氏(京都大学)との共同研究。チンパンジーの唾液中に含まれるオキシトシン濃度の測定を試みた。オキシトシンは、社会行動に関わるホルモンとして近年特に注目されるようになり、ヒトやヒト以外の動物を対象とした種々の研究がおこなわれている。しかし、チンパンジーを対象としたオキシトシン測定はこれまでおこなわれていなかった。そこで、チンパンジーの唾液中に含まれるオキシトシンを既存の測定キットで検出することが可能かどうかを確かめた。その結果、チンパンジーの唾液でもオキシトシンを検出することが可能であることが判明した。
チンパンジーの体毛中コルチゾルの測定(不破紅樹・洲鎌圭子・楠木希代・藤田心)
山梨裕美氏(京都大学)との共同研究。チンパンジーの長期的なストレスの指標として体毛中コルチゾルを用い、当センターを含む3つの施設(他は京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリと京都大学霊長類研究所)でチンパンジーの体毛中コルチゾル濃度を比較した。体毛は、2012年8月と12月に1回ずつ腕とわき腹より採取し、分析は霊長類研究所でおこなった。8月のサンプルを分析した結果、施設間での体毛中コルチゾル濃度の違いがみられた。当センターのチンパンジーはオス・メス共に比較的低い値を示した。今後長期的な変化について検討したい。