岡山県玉野市にあった類人猿研究センター(GARI)で研究のパートナーとして暮らしていたチンパンジー8人。
彼らのようすを、写真を添えてつづってきた2004年8月から2013年3月までの「えにっき」の記録です。
ツバキ、妊娠。
今、ツバキのおなかの中には7ヶ月目の赤ちゃんがいます。
昨年2004年6月に初潮が確認され、赤飯を炊いて祝った日から
わずか5ヵ月後の妊娠。
私にとってはとても衝撃的でした。
私がツバキの妊娠を知ったとき、一番に心配したことは 「じっとしていることが苦手なおてんばツバキがお母さんで、 本当におなかの中の赤ちゃんは無事に育つの?」ということでした。
初めての受精では流産することも多いらしく、 もしかしたら、本当に流産してしまうのでは・・・と、とても心配になりました。
妊娠初期、つわりと思われるような、なんだかだるそうな姿をよく目にしました。
やたらとあくびばかりしていたり、食べ物の嗜好がガラッと変わったり・・・。
ヒトとよく似ています。
ご飯の炊ける匂いでどんな反応をするか試してみればよかったかも・・・。
そんな身重になったツバキには悪いのですが、
妊娠5ヵ月目頃からエコー(超音波)で胎児の様子を観察させてもらっています。
滋賀県立大学の竹下秀子さん、明和政子さんらとの共同研究です。
しかし「エコーで観察」というのは、実はそれほど簡単なものではありません。
ただでさえ「嫌なことはやりたくないわ!」というのがツバキの性格ですから。
エコーの際に妊婦さんに必要なことは「毛の無いおなかにジェルを塗られ、プローブ(おなかに接触させる小さい機具:写真参照)を当てられても、数分~数十分間じっとしていられること」。
ヒトの妊婦さんなら、こんなことお茶の子さいさいですが、
チンパンジーの妊婦さんは、そう簡単にはいかないのです。
ツバキのエコー検査に至るステップは次のようなものでした。
① おなかの毛を剃る。(カミソリを肌に当てる練習から、徐々に剃るまで)
② ジェルをおなかに塗る。(初めはほんのちょっとから、だんだん多めに塗る練習)
③ プローブを当てる。(初めは、プローブを見せるところから、長時間当てられるようになるまで)
* チンパンジーはたいてい、何かを体に塗られたり、訳のわからない物を体に当てられたりするのを恐がります。
こうして小さなステップを毎日繰り返し、約一ヶ月の準備期間を経て ようやく何とか胎児の様子を観察できるまでになりました。
とりあえず、現段階で赤ちゃんは元気に育っている様子です。
おなかの中で、頭が下のときもあれば、上のときもあり、かなり活発に動いているようです。
エコーで確認している最中に、元気よく動くこともしばしばです。
手をグー、パーとしてみたり、口をパクパクさせたり・・・。
私の目の前に見えるのはツバキひとりなのに、そこにはもうひとつの生命が息づいている、
というのをエコー画像を見ながらひしひしと感じました。
ちなみにこちらがエコー画像です。(左…二次元画像〔平面〕 右…三次元画像〔立体〕)
また、妊娠期間が長くなるにつれ、ツバキも次第にお母さんらしくなってきました。
おてんば娘とは思えないほど、しぐさや表情がとてもゆったりとしてきて、
心身ともにお母さんになりつつある、といった感じです。
おなかもこんなに大きくなりました。(毛の無いおなかが愛らしい?)
私は類人猿研究センター(通称GARI)の5人のチンパンジーを観察し始めてまだ1年です。
でも、彼らをじっくりと見ていると、チンパンジーにもひとりひとりはっきりと個性があるということを強く感じました。
今、ツバキのおなかの中にいるもうひとりのチンパンジーは一体、どんな個性を持って生まれてくるのでしょう。
そして、このGARIの環境でどのような個性を発揮していくのでしょう。
今からとても楽しみです。
なにはともあれ、母子ともに健康な状態で赤ちゃんが誕生してくれることを願っています。
予定日は6月下旬。
無事に生まれたら、また赤飯炊くからね、ツバキ。