[論文タイトル] Auditory ERPs to stimulus deviance in an awake chimpanzee (Pan troglodytes): Towards hominid cognitive neurosciences
[和訳] 逸脱音にたいする覚醒時のチンパンジーの事象関連電位:ヒト科における認知神経科学に向けて)
[著者]上野有理(1)、平田聡(2)、不破紅樹(2)、洲鎌圭子(2)、楠木希代(2)、松田剛(1)、福島宏器(1)、開一夫(1)、友永雅己(3)、長谷川寿一(1)
1東京大学、2林原類人猿研究センター、3京都大学
以下のサイトで論文が公表されています。
http://www.plosone.org/article/fetchArticle.action?articleURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0001442
[概要]
チンパンジーの脳活動を、麻酔を用いずに計測することに世界で初めて成功しました。東京大学21世紀COE「心とことば-進化認知科学的展開」の長谷川寿一教授(東京大学大学院総合文化研究科)らのグループとの共同研究です。
ヒトの脳活動を探る研究が近年盛んにおこなわれるようになりましたが、チンパンジーの脳波を計測した研究は、過去には麻酔を用いたものしかありませんでした。脳波計測装置をチンパンジーの頭に取り付けたり、測定の間動かずにいる状態を保ったりすることが、麻酔なくしては難しかったためです。
この研究では、GARIのミズキを対象として、麻酔をしない普通の状態で、脳波を計測することに成功しました。GARIのスタッフとミズキとの間に長年にわたる親しい関係があり、ゆっくり時間をかけて脳波計測の練習を積んできたことによるものです。
本論文では、ある条件で音を聞いているときのミズキの脳波について報告しています。ヒトの脳波研究では、同じ音が繰り返し聞こえてくるなかで、まれに違う音(高さや長さが違う音)が聞こえると、特徴的な波形が観測されることが知られています。この波形は、環境の変化に対する脳内の処理を反映していると考えられています。ミズキに対して同じ手続きで脳波を計測したところ、高さの違う音が聞こえたときに、ヒトと類似した特徴を持つ波形が得られました。チンパンジーもヒトと同様の知覚処理をおこなっていることを示しています。
本研究は、ヒトとチンパンジーの脳活動を直接比較することを可能にしたものであり、知性の進化に関する新たな研究分野を切り開く大きな第一歩と言えるでしょう。