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2016.3月 ----- vol.20~チンパンジーの喜怒哀楽 その1

先月は“チンパンジーの笑顔”についてご紹介しました。
“笑顔”からわかるように、チンパンジーにも喜怒哀楽があり、
それに応じたさまざまな表情を見せてくれます。
“笑顔”以外の表情についても、もう少しご紹介したいと思います。

まずはこちらの写真をご覧下さい。

ある日のワンシーン

ロイとジャンバは、共にオスのチンパンジーです。
“↓”のジャンバは大きく口を開けて、歯をむき出しにしています。

さて、ジャンバはどんな気持ちなのでしょう?
ロイとじゃれ合って楽しくて笑っているのでしょうか?

実はこの写真、ジャンバが左にいるロイに攻撃されてるシーンです。
ジャンバのこの表情は「いやだよ、こわいよ~」といった、恐れを表す“泣きっ面”の表情なのです。

この、歯をむき出しにした表情は、見る人によっては“笑っている”と誤解されがちな表情でもあります。
楽しげなチンパンジーのポストカードや雑誌などの写真で、
実は、チンパンジーがこんな表情でうつっていることも少なくありません。
チンパンジーは作り笑顔をしないので、本当の笑顔を撮るのが難しいことはわからないでもないのですが・・・、
ちょっと複雑ですね。

こわい時の顔

さて、先ほどの写真で、攻撃を受けていたジャンバは恐れの表情をしていました。
では、攻撃しているロイはというと・・・、おそらくイライラして怒っていたはずです。
その時の顔はこんな表情だったにちがいありません。

怒った時の顔

チンパンジーは怒ると、キュッと口を結んで、目つきが険しくなります。
体じゅうの毛を逆立てて普段よりも体が大きく見え、全身で怒りを表現しているかのようです。

もし、みなさんが、怒って暴れまわるチンパンジーを見れば、すぐに“怒っている”と分かるはずです。
落ち着いている時とは打って変わって、荒々しい動きで、表情も目つきもまるでちがうのです。
間近で見ると、圧倒されるほどの迫力にびっくりするするかもしれませんね。

怒った時の行動

今回は、喜怒哀楽の「怒」にちなんで、
恐れの表情と、怒りの表情をご紹介しました。
動物園などで、もしもチンパンジーのケンカのシーンを目撃したら、少し表情にも注目してみてくださいね。

最近は、インフルエンザや花粉症などの流行もあって、日本ではどこに行ってもマスクをしている人が増えています。
でも、マスクをしている人の表情は読み取りづらく、少し不安に感じることもありますよね。
それほど、表情はさまざまな情報をくれるものです。

チンパンジーも同じです。
表情が読み取れるようになると、チンパンジーがどう感じているか、その時に何が起こっているのかが
少しずつ分かってくるんですよ。
次回も、チンパンジーの心の理解を深めるために、もう少し他の表情をご紹介します。
お楽しみに~。

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2016.1月 ----- vol.19~チンパンジーの笑顔

新しい年が始まってあっという間に1ヶ月。
新年のはじめは、「今年はいい年にしたい」「今年はたくさん笑って過ごしたい」など、夢がふくらみますね。
皆さん、最近笑っていますか?
「そういえば、あまり笑ってないなあ」という人のために(!?)、
今月はチンパンジーの「笑顔」をご紹介したいと思います。

「え?笑うことができるのは人間だけじゃないの?」と思う人がいるかもしれませんね。
いえいえ、そんなことはありません。
チンパンジーだって楽しい時には笑うんです。
さて、どんな笑顔か想像できますか??
それは、こんな顔です。

チンパンジーの笑い顔

口を大きくあけて、時には目も細めて笑います。
表情から、とてもリラックスしているのが伝わってきます。
私たちも大笑いする時はこんな顔になりますよね。
この、チンパンジーの笑い顔のことを“プレイ・フェイス”と呼んでいます。

しかも、表情だけでなく笑い声も出すんです。
私たちの笑い声は「アハハハ」「ワハハハ」「ハッハッハ」などと表しますが、チンパンジーの笑い声は
「ガッハッハッハ」という感じでしょうか。
実際に、その笑い声を聞いてみましょう。

チンパンジーの笑い声はこちらから→<音声>

では、どんな時に笑うかというと・・・。
“プレイ”。そう、“遊び”の最中です。
チンパンジーはくすぐられるのが大好き。
たとえば、首元やお腹などをくすぐられると、「ガッハッハッハ」と笑い声が漏れてしまうのです。
くすぐったいと笑ってしまうのは、チンパンジーもヒトも同じですね。

他にも、取っ組み合いや追いかけっこの最中、時には、一人で遊んでいる時にも笑顔が見られます。

チンパンジーの遊び中の笑い顔

チンパンジーが笑っている様子を眺めていると、こちらも温かい気持ちになります。
ヒトの笑顔にもチンパンジーの笑顔にも不思議なパワーがあるようです。
というわけで、チンパンジーのいろいろな笑顔を集めてみました。

みんな大笑い

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、仲間の緊張や不安を和らげるためのサインが笑顔の起源ではないかと
仮説をたてたそうです。
笑いの進化については明確には分かっていませんが、チンパンジーが遊びながら声をあげて笑っている場面を見ると、
確かに、そこには緊張も不安もなく、穏やかな時間が流れている気がします。

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2015.12月 ----- vol.18~みんなでパトロール

先月に引き続き、今月もチンパンジーの群れにまつわるお話です。

今月は、群れの生活で見られる行動のひとつ「パトロール」をご紹介したいと思います。

野生では、大人のオスチンパンジーが連れ立って、自分たちが暮らしているエリア(いわゆる“なわばり”)の境界を
頻繁にパトロールすることが知られています。
なわばりの境界をパトロールして、他の群れのチンパンジーが侵入してこないよう見張っているのです。

私たちがいた研究センターのチンパンジーも、毎日「パトロール」をしていました。
とはいえ、飼育下のため他の群れのチンパンジーが入ってくることはありません。
野生のパトロールとは少し違うかもしれませんが、センターのチンパンジーたちのパトロールの様子を見てみましょう。

センターの場合は、オスだけでなく群れのみんなでパトロールに出かけていました。
室内から野外の広い運動場に出ると、そこが彼らのなわばり。
半屋内の小さい運動場も彼らのなわばりですが、全体が一目で確認できる場所では、
境界をパトロールすることはありません。

広い野外運動場で過ごす時だけ、パトロールにでかけるのです。
野外運動場の外壁に沿ってぐるっと一周するのが彼らの馴染みのルートでした。

パトロールルート

パトロールに先陣を切って出かけるのは、だいたいオスのジャンバです。
ジャンバがまず動き出します。
歩き出しながら時々、群れの仲間たちの方を振り返ります。
みんなに「行く?」と誘っているようでした。
すると、暗黙の了解なのかみんながジャンバについて行くのです。

パトロールのはじまり

パトロールの最中は、ちゃんと一列になって移動します。
でも、時にパトロールを途中止めして道草する子がいたり、逆に途中から合流する子がいたり、
少しゆるいパトロールな時も・・・。
でも、基本はみんなで一列になって出かけます。

坂道を登って、森の上部を通って、また森をくだって…。
時に逆の方向からまわってみたり、時にショートカットしてみたり…。
朝、野外の運動場に出てから、夕方、室内の寝室に戻る前まで、1日に何度もパトロールに出かけていました。

パトロールのようす

パトロールの途中に、まれに面白い光景が見られました。
それは、誰かがある行動をとると、ほかのみんなも同じ行動をとるということです。
一人が水を飲むと、みんなが水を飲む、、、。
一人がジャンプして飛び越えると、みんなもジャンプして飛び越える、、。
といった具合に。

私たちも、一人があることをすると、ほかの人もついついやってしまうとことってありますよね。
どうやら、チンパンジーにもそれと同じようなことがあるみたいです。

行動をまねる?

なんだか、ほほえましい光景です。
これも飼育ならではの安全な環境だからでしょうか?

ギニアのボッソウで暮らす野生チンパンジーで興味深い報告があります。
人が暮らす地域のすぐ近くの森で暮らすボッソウのチンパンジーは、
人や車などが通る危険性のある道を群れで横切る時、まず道に出て確認をするチンパンジー、
先陣を切って渡るチンパンジー、みんなが渡りきるのを見守るチンパンジー、
そしてしんがりを務めるチンパンジーなど役割分担があるというものです。
興味深いのは、先陣を切るのは群れの第二位のオス、しんがりは第一位のオスであることが多いとうことです。

研究センターで、いつもパトロールに出発したのは、ジャンバでした。
実は、ジャンバも群れの第二位のオスでした。

そして、だいたいしんがりを務めていたのが、なんと第一位オスのロイでした。

野生と飼育の違いはあっても、どこかで本能的なものがあるのかもしれないと思わせてくれるおもしろいエピソード。
群れで暮らすからこそ見えてくる興味深い行動のひとつです。

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2015.11月 ----- vol.17~群れの特徴

ライオン、オオカミ、ニホンザル…。
群れで生活する動物は、たくさんいます。
チンパンジーも群れで生活する動物です。
今回は、チンパンジーが群れでどんなふうに暮らしているのかをお伝えしましょう。

野生のチンパンジーは、暮らす地域によって差はありますが、小さい群れだと10数頭から、
大きい群れだと100頭を越えるものまであります。
メンバーもさまざまで、大人のオス・メスはもちろん、赤ちゃんからお年寄りまで一緒の群れで暮らしています。
(メンバーの幅も地域によって異なります。)

野生チンパンジーの群れ

チンパンジーの群れは「父系社会」。
つまり、「オスは基本的に生まれてから死ぬまで、一生を同じ群れで過ごす」ということです。

では、メスはどうかというと・・・。
メスは子どもが産めるくらいの年頃になると、生まれ育った群れを出ていき別の群れに入ります。
これを「移籍」と呼んでいます。ちょうど私たちヒトの「お嫁入り」みたいなものですね。
年頃になったメスが他の群れに移籍することによって、それぞれの群れのメンバーが入れ替わり、
血縁が濃くなるのを防いでいるようです。

チンパンジーの群れは、ほかの動物でもよく見られるように、社会的な順位があります。
群れには、「アルファ」と呼ばれるもっとも強いチンパンジーがいます。

群れの社会的位は、動物園などで飼育されているチンパンジーの群れにも存在します。
じっくりと彼らの行動を観察してみると、強いチンパンジーが誰なのか分かってきますよ。
その行動観察の手助けとなるヒントを少しご紹介しましょう。

 

ヒントは“挨拶”。

チンパンジーには、順位の低い者が順位の高い者に“挨拶”をする、というルールがあります。
だから、みんなに挨拶をされているチンパンジーを発見したら、それがアルファということになるわけです。

では、チンパンジーの“挨拶”とはどんなものなのか、私たちが以前いた研究センターの例をご紹介します。

 

センターには8人のチンパンジーがいました。この中で、「ロイ」というオスがアルファでした。

研究センターの群れ

挨拶のシーンはこんなかんじです。

ロイへの挨拶

ロイがのしのしと歩いて現れると、他のチンパンジーたちが、ロイに向かって駆け寄ります。
そこで頭を上下させてお辞儀のような格好をします。
挨拶をされる側のロイはというと、
威張った様子で挨拶を無視するように止まることなく突き進むことがよくありました。
だから、時には順位の低い他のチンパンジーたちは、後ずさりしながら必死で挨拶するなんていうこともありました。

挨拶の一番大きな特徴は、その発声です。
挨拶をする側が、「オッオッオッ」とか「アッアッアッ」とかいう少し太い大きな声を出します。
みんなが一斉にロイに挨拶しに行くと、挨拶の声で大盛り上がりです。
だから私たちは、実際に現場を見ていなくても、その声が聞こえただけで
ロイとみんなの接触があったということがわかるのです。

チンパンジーにとって、挨拶は大事な行動の一つです。
挨拶をすることによって、自分より順位の高い相手に敬意を表しているとも言われています。
子どもだって、ちゃんと挨拶ができないと怒られてしまうんですよ。

ロイに挨拶2

このように、チンパンジーの群れには順位にまつわる暗黙のルールがあります。
そのルールは「やってはいけないことをしたら怒られる」ということの繰り返しで、
小さな頃から自然と身についていきます。

社会のルールがあるのは私たちと同じですね。

チンパンジーが群れでどんなふうに暮らしているのか、少しだけ分かっていただけましたか?
次回も、もう少し群れのお話をしたいと思います。お楽しみに。

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2015.10月 ----- vol.16~チンパンジーがすむところ その3

前回は、チンパンジーが暮らす飼育環境について、そこで暮らすチンパンジーの生活を少しでも良いものにするための
さまざまな施設や設備の工夫を紹介しました。
今回は飼育環境の別の面での工夫をご紹介したいと思います。

その工夫とは、チンパンジーの「食」に関する工夫。
引き続き、以前私たちがいた研究センターのことを一例として紹介しますね。

野生チンパンジーは、一日のうち、かなりの時間を「食べる時間(=採食時間)」に費やしています。
この「採食時間」には、ただ“食べている時間”だけではなく、食べ物を探して移動する、
また場合によっては道具を探したり作ったりして食べ物を手に入れる、などの
“食べ物を獲得するまでの時間”も含まれます。

食事中の野生チンパンジー

野生では当然のことですが、生きていくために常に食べ物を探さなければなりません。
一方、飼育ではそのような心配がないため、ごはんの時間以外は退屈してしまうことも少なくありません。

限られた場所で暮らす飼育環境でも、野生の暮らしのように退屈せず過ごすために、
研究センターで考えたアイデアは・・・。

<アイデア:その1>時間をかけて食べられるものをあげる

研究センターでよくあげていたのは“サトウキビ”です。沖縄で有名なあれです。
人が食べる場合、外側のとても硬い皮はむいて食べますが、チンパンジーにあげるときは皮ごとです!
噛めばじゅわっと甘さが出てくるので、チンパンジーは大好きです。

ちょうど私たちがガムを食べる時みたいに、味がなくなってもずっと噛んでいられる食べ物です。
サトウキビは噛みつくすと、もとの形がすっかりなくなってスポンジ状みたいになるのですが、
チンパンジーたちは、くしゃくしゃになったサトウキビのかけらを、水たまりに浸して雨水を飲むこともありました。

時間をかけて食べられるもの

<アイデア:その2>食べるまでに時間がかかるようにする

たとえば、小さな大豆を広い運動場にまいてみたらどうなるでしょうか。
草の生い茂った広い運動場に散らばった小さな大豆。そこからお目当ての大豆を探し出して、
一つ一つ拾っていくのは、時間のかかることです。

チンパンジーたちは、太い指で小さな大豆を上手に拾っては食べ、拾っては食べ、を繰り返していました。

小さな食べ物

<アイデア:その3>サプライズを作る

研究センターでは、ときどきスタッフが運動場に食べ物を隠しておくこともありました。
サプライズプレゼントです。
運動場が広いので、どこに何が隠されているかすぐにはわからない場合もあります。
チンパンジーたちは、何やらいつもと違う雰囲気を察して、運動場に出るなり食べ物を探しに行くことも・・・。
サプライズだけどサプライズじゃない・・・。

見つけられたらラッキー!
私たちが宝探しにワクワクするように、チンパンジーもひょっとしたら、
同じようにワクワクしていたのかもしれませんね(笑)。

時には、偶然、隠された食べ物を発見したチンパンジーが、急に“フードグラント”と呼ばれる
食べ物を食べて少し興奮した時に出す声を発していることもありました。
これがまさに、サプライズですね。

見つけてもすぐには手に入らないような、ちょっと意地悪な(?)隠し方をしたこともあります...。
(下の写真)

食べ物を隠す

たったこれだけの工夫でも、採食時間が長くなると、それだけ、チンパンジーにとって退屈しない時間が増えます。
アイデア次第でチンパンジーの生活はもっともっと楽しくなりそうです。

“増やす”努力をしていたのは、採食時間だけではありません。
研究センターでは、チンパンジーにあげる食べ物の品目にも気を配っていました。

野生では、年間に約200品目の食物を食べると言われています。
それに少しでも近づけるよう、センターでは1日30品目を目標に食事を準備していました。

食事といっても、朝・昼・晩などの食事だけでなく、
研究やトレーニングをおこなう際のお勉強(=実験)時間のおやつも含まれます。

一年中手に入る基本の野菜や果物に加えて、季節ごとに「旬」な食べ物も取り入れていました。
下の写真は、実際にチンパンジーが食べていた食事メニューです。

見るからに彩りもバランスもよくて美味しそう!!
私たちの方が、こんなにたくさんの品目は食べれていないかもしれませんね。

めざせ30品目

このように、「食」ひとつをとってみても、チンパンジーの生活の質を良くするためのアイデアはたくさんあります。
ほかにもスタッフが考えた小さな工夫はたくさんあるんですよ。

すべては、スタッフがチンパンジーのことを考え、少しでも野生に近い暮らし、充実した暮らしができるように
という思いが原点です。

飼育されているチンパンジーの“生活の質”を少しでも良くするために、飼育場所を整備する。
そのことはもちろん大事です。でもそれに加えて、飼育業務での取り組みもまた大切なことです。

“生活の質”という言葉には “どんなところで暮らすか”というハード面での意味合いもあれば、
“そこでどんな風に暮らすか”というソフト面での意味合いもあるように思います。
ハードとソフト、2つの側面が揃ってこそ、チンパンジーの“生活の質”がさらに高まるのかもしれません。

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2015.9月 ----- vol.15~チンパンジーがすむところ その2

前回は、野生チンパンジーがすむところについてお話しました。

「チンパンジーがすむところ」は、野生のチンパンジーが暮らすアフリカの森だけではありません。
動物園や研究所、保護施設など、世界中には “飼育”されているチンパンジーも大勢暮らしています。

飼育されている場所によって、チンパンジーの暮らしはさまざまですが、そのひとつの例として、
今回は、私たちが以前働いていた研究センターでのチンパンジーがすむところをご紹介したいと思います。

下の写真は、研究センターでチンパンジーが暮らしていた運動場の写真です。
実はこの場所、飼育であっても野生チンパンジーが暮らす環境に少しでも近づくようにと考えられた
さまざまな工夫が施されています。

チンパンジーの運動場

まず目を引くのは鉄骨のタワー。(写真左側)
高さは13メートルあります。なんと3階建てのビルと同じくらいの高さ!

チンパンジーやヒトと比較すると、こんなに大きな構造物です。

13メートルのタワー

このタワーは、ジャングルにある高い木々の役割を担うよう設置されました。
本物の樹木ではないものの、樹上で暮らすチンパンジーの生活に近づけようという狙いがあります。

チンパンジーが壊したり、倒れたりする危険がないよう、木材ではなく頑丈な鉄骨で造られていますが、
チンパンジーが休むための平らな部分には、自然素材である木材や土などを使っています。

タワーのてっぺんまで登ると、たいていのヒトは足がすくんでしまうのですが、チンパンジーたちは軽々と登っていき、
手すりも何もない13メートルの高さの広場の端っこで心地よさそうに過ごしていました。

タワーで伸び伸びと過ごす彼らを見ていると、チンパンジーが本来、
樹上で暮らす生き物であることを実感させられます。

チンパンジーは高いところが好き

そして研究センターには、タワーだけでなく広い森もありました。
タワーを含むこの運動場の敷地は 7,400平方メートル。

チンパンジーは、森に入って葉っぱ、木の実、樹皮、花など、いつでも自由に採って食べることができました。
早春はヒサカキ、夏はヤマモモ、秋はドングリ・・・など。

森の中は複雑に入り組んでいて、私たちヒトもなかなか奥まで入っていけないほどでした。
採食だけでなく、ある時は隠れ場所になったり、ある時は遊び場所になったり。
毎日変化する自然の様子は、きっと、チンパンジーにとって刺激的だったことでしょう。

森の中で過ごす

でも、やはり飼育は飼育。

いくら13メートルのタワーがあっても、大きな森があっても、広大なアフリカの森とは比べ物になりません。
一生をここで暮らすと考えるとやはり狭い・・・。
だから、できるだけ彼らが楽しく暮らせる工夫を考えていました。

アフリカの森には、たくさんの枝で茂った樹や、その樹に巻き付いたツルなど、
チンパンジーが移動や遊びに活用できるものがたくさんあります。

それらの役割として、研究センターの運動場にも消防ホースやロープなどを縦横無尽に張り巡らせていました。
これらを張り巡らせることで、チンパンジーが移動できる空間が格段に広がると同時に、
遊び場所や休む場所も増えるのです。

ロープをはりめぐらせる

ロープを張る場所や張り方を工夫することで、チンパンジーの行動域がぐんと増えることがあります。
逆に、せっかくロープを張ったのにほどんと使われない場所もあったりします。

彼らが何を欲していそうか、何なら満足してくれそうか、いつもそんなことを考えながら
少しずつ運動場に新しいプレゼントを追加していました。

たとえばこんなものも。

チンパンジーへのプレゼント

ベッドを取り付ける時も、ベッドの大きさ、取り付ける位置などによって、
チンパンジーに人気があったりなかったりします。

新しいプレゼントを使ってくれるチンパンジーも、子どもに人気、大人に人気などさまざまです。
そうしたチンパンジーとのやりとりも楽しみながら、私たちは毎月彼らにプレゼントをしていました。

 

はじめにもお伝えしましたが、世界のいろいろな所に飼育されているチンパンジーがいます。
それぞれの飼育施設でそれぞれの 飼育 スタイルがあると思います。
研究センターは、チンパンジーにとって恵まれた飼育環境の一つだったかもしれませんが、
たとえセンターほどの広さはなくても、チンパンジーたちが少しでも楽しく暮らせる工夫はできるはず。

野生動物を飼育するということに さまざまな意見もあると思いますが、
今飼育されているチンパンジーたちが、少しでも野生に近い形でストレスの少ない生活を送れるようにしたいものです。

どのような環境がいいのか、それをしっかりと考えていくことが、
飼育されているチンパンジーたちの生活の質を上げることにつながるのではないでしょうか。

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2015.8月 ----- vol.14~チンパンジーがすむところ

みなさんは、野生のチンパンジーがどこに暮らしているかご存知ですか?
アフリカのジャングル?南米のアマゾン?それともアジアの山奥?
チンパンジーはテレビや動物園などでよく見かけるけれど、意外と「知らない」という人も多いかもしれませんね。

野生チンパンジーが暮らすのは、アフリカ大陸です。
広大なアフリカ大陸の中でも、赤道に近い地域(下図の緑で示したところ)にしか生息していません。

チンパンジーの生息地

野生チンパンジーが暮らすところ…、どんな場所か想像できますか?
たとえば、彼らはこのような森にすんでいます。

 

これはアフリカ大陸の西側、ギニア・ボッソウ地区の森です。

ギニア・ボッソウ1

 

ご覧のとおり、高い木がうっそうと生い茂る森で、チンパンジーたちは群れを作ってこんなふうに暮らしています。

ギニア・ボッソウ2

野生チンパンジーは、一日の半分以上を木の上で過ごすと言われています。
チンパンジーにとって森の木は、採食場所や遊び場所、毎晩の寝る場所など生活の基盤となるとても大切なものです。

 

別の地域も見てみましょう。
次の写真は、アフリカ大陸の東側、タンザニア・マハレ山塊国立公園に暮らすチンパンジーの様子です。
こちらも高い木が生い茂る熱帯林です。
先ほどは木の上にいるチンパンジーの様子だったので、ここでは地上での様子を。

タンザニア・マハレ1

野生チンパンジーは、ずっと同じ場所にとどまって暮らしているわけではありません。
こんなふうに地上でくつろぐ時間もありますが、食べ物を求めて森の中をちょっとずつ移動し、
場所を変えながら生活しています。

マハレの森には、チンパンジーの他にも、たくさんの動植物が共存しています。
アリやチョウなどの昆虫類。ヒヒ、イボイノシシ、ヒョウといった哺乳類。
ショウガやマンゴー、レモンなどの樹木。この地域特有の植物など・・・。
マハレの森は、たくさんの生命が息づく豊かな森です。

実は、チンパンジーは木々がうっそうと生い茂る熱帯林だけでなく、
木がまばらで乾燥している地域(疎開林:そかいりん)にもいます。
熱帯林と違って、サバンナに近い疎開林には、ライオンやキリン、カバやゾウなどもいます。

疎開林は水や食べ物も豊富でないうえに、生活の拠り所となる樹木も少ないため、
チンパンジーはそれらを求めて長い距離を移動しなければなりません。

地上を移動する時間が増えるので、当然、ライオンなどの危険動物に出くわす可能性も高くなります。
こうした理由から、木々が豊かな熱帯林に比べると、疎開林は、チンパンジーが暮らしていくには過酷なものです。
しかし、チンパンジーは厳しい環境でも、そこに適応しながら暮らしているのです。

 

今月は野生チンパンジーが暮らす場所についてのお話でした。
「熱帯雨林」と聞くと広大なイメージが浮かぶかもしれませんが、
地球全体の広さからすると野生チンパンジーが生息している地域というのは、ごくごく限られています。

しかも、昨今の森林破壊の状況などを考えると、野生チンパンジーを取り巻く環境は決して安心できるものとは言えません。

チンパンジーの暮らしを脅かす多くの問題。その原因となっているものは・・・。
そのことについては、またの機会にお話しますね。

熱帯雨林

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2015.7月 ----- vol.13~手足のバランス

先月はチンパンジーの“ナックルウォーク”についてご紹介しました。
手を軽く握って四足でこんなふうに歩く歩き方でしたね。

ナックルウォーク

「四足歩行」と言っても、チンパンジーの四足歩行は、ヒトの赤ちゃんのハイハイとは全然違います。
今回はそのことについてお話しましょう。

下の写真に注目して下さい。
女の子がチンパンジーのパネルの隣で、ナックルウォークのまねをしてポーズをとっています。

チンパンジーとヒト
隣のチンパンジーと見比べてみると・・・。
手のつき方は同じかもしれませんが、姿勢が大きく異なっています。

どこが違うか気がつきましたか?

ヒントは脚です。

正解は・・・

チンパンジーはほとんど脚を曲げていないのに対し、女の子は膝のところでしっかりと脚を折り曲げています。
赤ちゃんのハイハイも、脚を折り曲げてヒザから下を床につけて歩きます。

一見、同じように四足で歩いているようでも、チンパンジーとヒトとでは姿勢がまったく違うのです。

チンパンジーが歩く姿勢

どうしてこんな違いが出るのでしょう?

その秘密は、手足(腕と脚)の長さのバランスにあります。

私たちヒトは、腕よりも脚の方が長いですが、チンパンジーは、脚よりも腕の方が長いのです。
そのため、チンパンジーは、四足になっても脚を伸ばしたまま歩けるというわけです。

手足のバランス

おもに四足歩行で歩くチンパンジーですが、私たちのように二足歩行もできます。
でも、バランスが取りにくいためか長距離を移動する姿はあまり見かけません。

チンパンジーの二足歩行

ヒトは二足歩行に伴って脚が長くなったと言われています。
脚が長くなることで一歩の歩幅が大きくなり、効率よく歩けるようになるというのが進化の理由のようです。

また、長い脚は重心を腰に近づけるため、直立の姿勢を保ちやすいという利点もあり、その結果私たちは、
二足歩行をするのに都合がいい手足のバランスになりました。
同様に、おもに四足歩行のチンパンジーも、それに適した手足のバランスで今に至っています。
体のバランスも、それぞれの行動のしかたに沿って進化してきたのですね。

ヒトとチンパンジーの手足のバランス

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2015.6月 ----- vol.12~ナックルウォーク

ロイ

これは大人のオス、チンパンジーのロイの写真です。
みなさんは、ロイの写真のどこに目が行きますか?

するどい視線?
ぺちゃんこの鼻?
大きい手?

おや、おや!?
手をよく見てみると・・・。
指の中ほどがずいぶん太いですね。
今回はどうしてこんなにも太い指になるのか、その理由を探ってみたいと思います。

チンパンジーの指がこんなにも太くなっているのには、彼らの歩き方が大きく関わっています。
「チンパンジーの歩き方ってどんなの?」と聞かれると、どんな姿が思い浮かぶでしょうか。
ヒトの赤ちゃんのハイハイのように、四本の手足で歩く姿?
それとも大人のように二足で歩く姿?

チンパンジーはおもに四足で歩きます。
歩いている姿をよ~~~く見て下さい。

ナックルウォーク

ユニークなのは手の部分です。
手のひらをつけて歩くハイハイとは大きく違います。
ぐぐっと寄ってみましょう。

手のアップ

チンパンジーは歩く時に、手を軽く握って第一関節と第二関節の間の外側を地面に付けるようにして歩きます。

ナックルウォークの手のつきかた

この歩き方を「ナックルウォーク」と呼んでいます。
ナックルウォークをするのは、霊長類(れいちょうるい:いわゆるサルの仲間)の中でも、
アフリカに住むチンパンジー、ボノボ、ゴリラだけです。
でも、なぜこんな歩き方をするのかは、はっきりと分かっていません。

歩いている時だけではなく、無意識にどこかに手をつく時などにも、ナックルウォークの“グー”になっていることがよくあります。

ナックルのグー

また、ナックルウォークにより、大人になるにつれて、地面につく部分の指が太く、硬くなります。
そのため、私たちが手を広げた時のように、指の先までピンと伸ばすことは得意ではないようです。
写真のように、手を広げても指先は曲がったまま・・・。

手のひらを広げる

ナックルウォークだからこそ、足跡だってこんなにおもしろくなっちゃいます。
どこが手でどこが足か分かりますか?
チンパンジーがナックルウォークという歩き方をすると知らなければ、これがチンパンジーの足跡だとは気づかないかもしれませんね。

チンパンジーの足跡

「チンパンジーの歩き方をやってみて」と言われた時(なかなかそんなことは言われることはないと
思いますが(笑))、すぐにナックルウォークができる人はほとんどいないでしょう。

ナックルウォークは、やってみると実はけっこう大変です。
体重がかかって、すぐに指が痛くなってしまいます。
チンパンジーはそれを毎日繰り返しているのだから、ちょうど私たちの足の裏のように、
地面につけている部分が太く硬くなるのもうなずけます。

今回は、ナックルウォークについてご紹介しました。
実はもうひとつ、チンパンジーの歩き方には、ヒトの赤ちゃんのハイハイと大きく違うところがあります。
それについては、また次回お話しますね。

手のアップ2

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2015.5月 ----- vol.11~指紋があるよ~

2回にわたりチンパンジーの手と足についてご紹介しました。
チンパンジーとヒトの手足は、そっくりなところも、ちょっと違うところもありました。

そんな手足に関連して、今回はもう一つ、ヒトとそっくりなところをご紹介します。

チンパンジーの手足

この手足、指先をアップにしてみると、こんな感じになっています。

チンパンジーの指紋

見えましたか?そう、チンパンジーにもちゃんと指紋があるんです。
ぐるぐると渦を巻いたような複雑な指紋、私たちヒトの指紋とそっくりですね。

人の指紋

こうした指紋があるのは、チンパンジーだけではありません。
霊長類(れいちょうるい:いわゆる“サル”の仲間)にはすべて指紋があります。
ゴリラやオランウータンなどの大型類人猿はもちろんですが、リスザルやキツネザルなど小型のサル、
私たちに馴染み深いニホンザルにもちゃんと指紋があるのです。
顔がみんな違うように、もちろん指紋も一人一人違います。

霊長類に共通して見られる「指紋」、その発達には暮らしのスタイルが関係しているようです。
おもに木の上で暮らす霊長類。木に登ったり、木の枝をつかんで移動したり。

そうした暮らし方に合わせて、滑り止めの役割として指紋が発達したと言われています。
指紋があることで指先に凹凸ができ、ものをつかむ際の摩擦力が上がるため、しっかりとつかむことができるんです。
また、指紋の部分には汗が出る穴がたくさんあいているので、そこから出る汗も滑り止めに一役買っています。

ちなみに、しっぽをくるくると巻きつけて移動するのが得意なクモザルは、しっぽに「尾紋」と呼ばれる
指紋のようなものがあります。
しっかりとものをつかむことができるこのしっぽは、第5の手足と言われています。

また、木の上で生活するコアラにも、ヒトやチンパンジーと同じような複雑な指紋があるそうですよ。

動物園などでガラス越しにチンパンジーなどを眺めることがあったら・・・。
運がよければ、そのガラスに指紋の跡が残っているかもしれませんよ。探してみるのも楽しそうですね。

ガラス越しのチンパンジー

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